これはもう驚きの内容。歴史上の覚者たちが、たとえ話を使って指し示そうとしたものが、この本にあります。心して読むように。
くまくんと魔法のマント
おお、寒い。ほら あんなに雪が降っている。こぐまのくまくんは、お母さんにいいました。
「寒いよう。あんなに雪が降っている。ボク、なにか、着るものがほしい」
そこで、母さんくまは、くまくんに、いいものをこしらえてやりました。

「ほうら、いいものが出来ましたよ。かぶってごらん」
「わあーい。帽子だ。これがあれば、もう寒くないぞ」
くまくんは外に出ていきました。

けれど、すぐに戻ってきました。

「どうしたの。まだ何か欲しいの?」と母さんくまが聞きました。
「寒いよう、ボク、なにか、着るものがほしい」
そこで母さんくまは、くまくんに、いいものをこしらえてくれました。
「ほうら、いいものが出来ましたよ。着てごらん」
「わあーい、オーバーだ、ばんざーい!もう、これで寒くないぞ」
くまくんは喜んで外へ出ていきました。

けれども、またすぐに戻ってきました。
「あら、何かまだ欲しいの?」と母さんくまは聞きました。
「ボク、寒い、なにか、着るものがほしい」
そこで母さんくまは、くまくんに、もう一度、いいものをこしらえてくれました。
「ほうら、くまくん、いいものが出来ましたよ。これさえあれば、もう寒くはないはずよ。さ、履いてごらん」
「わあーい、ズボンだ、ばんざーい。もう、これで寒くないぞ」
くまくんは、大喜びで外へ飛び出していきました。
ところが、またまた、戻ってきました。
「おやおや、今度はなあに?」と母さんくまが聞きました。
「ボク、寒い、なにか、着るものがほしいよう」
これには、母さんくま、ブチ切れ!

「いいこと」と母さんくまは言いました。
「おまえは、帽子をかぶって、オーバーを着て、ズボンを履いているのよ。このうえ、何が欲しいの?毛皮のマントでも欲しいっていうの?」
「うん、ボク、毛皮のマントがほしい」と、くまくんは言いました。
母さんくまは、くまくんの帽子を脱がせ、オーバーを脱がせ、ズボンを脱がせました。
そして、くまくんの体を、ポンポンと叩いて、「ほうら、毛皮のマントなら、ここにありますよ」といいました。
「ばんざーい!これ、ボクの毛皮のマントだ。これでもう、寒くないぞ」
くまくんは、そう言って、元気よく外に出ていきました。そして、ほんとにもう、ちっとも寒くなかったんですって。
なんだか、おかしいですね。
解説
この物語は、明らかに寓話ですね。本当の幸せとは何かを、暗に示しています。(寓話とは、教訓を含む物語。擬人化した動物を主人公とするものが多い。)
人間は、幸せをつねに外側に求めます。車や家、名声や富、あるいは結婚などなど。これらが手に入れば、幸福になれると信じています。
確かに一時は、満足するかもしれません。しかし、いずれ虚しさが訪れます。そしてまた、何かで心を満たそうと試みます。
しかし、根本的には満たされません。心は寒いままです。それはなぜなのか?本当の幸せとは、物や出来事とは関係がないからです。
外側の何を持ってしても、満たされることはありません。今すでに、ここにあるもの。「あなた」が幸せです。
古代インド哲学がアートマンと呼び、母さんくまが「ここにありますよ」と言ったもの。本当の私です。
私たちは、自分が誰なのかを忘れてしまいました。それを思い出すまでは完全に満たされることはありません。
心に虚しさがあるとき、それは”本当の私”からのささやきなのです。その時、初めて人は向きを変え、自己の探求を始めます。
キリストは、「神の国は、あなたの中にある」と説いています。すなわち、あなたの中に幸福を求めよ、というメッセージです。
この寓話は、外側にだけ幸せを追い求めるのはやめなさい、と伝えているのかもしれませんね。とてつもなく深い物語です。
今日の格言。童話、あなどるべからず。
